松村邦洋

昨日の東京マラソンでタレントの松村邦洋が一時的に心肺停止状態になったというニュースを聞いて、やっぱりねえ、と思った。何がやっぱりねえかと言うと。

何年か前のお笑い番組で、太ったタレントの身体検査をしていた。ちなみに今の松村の身長・体重は報道によれば、164cm・101kgである。そのころはもっと太っていて、検査したお医者さんから、「本気でやせないと心臓病ですぐに死んじゃうよ」と真剣に心配されていた。医者のアドバイスを本気に受け取らなかったのだろう、その後も、彼は太ったままだった。

もちろん、太っていることがネタとして要請されていたので、肥満を維持することが必要だった。これも何年か前だが、若い女の子からベッドインするよう誘われるという内容のドッキリ番組に出演していた。松村は、その誘いにのって、パンツ一枚というところまでいった。姿は、お相撲さんがパンツ一枚になっているような感じ。番組に出演していた他のタレントは、太っているヤツにも性欲があるんだ、とでも言いたげに笑い転げていたが、私は視聴者の一人として、だぶついた肉体にパンツ一枚という松村が哀れで、笑うに笑えなかった。それが番組の毒だとしても卑しいなと思った。でも、そうやって、芸能界で生き残ってきたんだね。

今回のマラソン出場は番組の企画だったらしく、去年完走できなかったのを挽回するため今年も出場したということだった。無理させられて本当に気の毒である。それに、心肺停止状態だったことから、後遺症も懸念される。ニュースでは意識が回復したとしか報道されていないが、どんな機能障害が起こってもおかしくない。

同じマラソンに2回目の挑戦というのも気がかりだ。1回目には無念のタイムオーバーで完走できなかったといっても、その無念さは2〜3週間経過すれば忘れることができる。タイムオーバーというのはルールである、だから完走できなかったのは自分のせいではない、と素直に言い聞かせることができるからである。

ところが、今回も途中リタイヤしたことで、彼の精神がある傷を被った可能性がある。「そういえば、1回目もダメだった、そしてこの2回目もダメだった。なんか、負債を背負った感じがする・・・。この負債を返さないとまた同じことが起こるのではないか。」松村はそう考えるような気がする。

傷の反復である。何かをやって挫折すると、マラソンのリタイヤの記憶が甦る。その記憶は、これを機会にあのリタイヤを埋め合わせろ、とつぶやく。しかし、だからといって、そう簡単に負債を返すことができるはずもなく、挫折は繰り返されていく。そうやって、挫折するたびにマラソンの記憶に引き戻され、今という時間を失っていく。

で、結局、あせりのなかで、問題の大元であるマラソンにもう一度挑戦ということになる。でも、当の東京マラソンに出場するには主催者側からストップがかかる。となると、チェックが甘い海外でのマラソンしかない。周りの人間は誰もが松村を止めようとする。が、彼はそれには耳も貸さない・・・。そのただならない真剣な様子は神経症の症候である。

そういう状況にならないように、もしあったらの話だが、こちらの傷も早く癒えてほしいものである。