吉田秋生「スクールガール・プリンセス」

吉田秋生の「スクールガール・プリンセス」を読む。思春期の少女がもつ承認願望をさらりと描いた秀作。思春期の少女は本作品の主人公。といっても、読者にそうとは分からない人物に設定されている。見かけの主人公は、大学卒業後に結婚し、女の子を出産、真…

家事(育児を含む)について考える

2、3年程前に、専業主婦のイメージの貧困さについて嘆いたことがあった。例えば。働く人からは、楽な生活を送っている人たちだとか、年金泥棒とか言われているし、男性が牛耳っている政財界は、専業主婦を雇用弁に使いたいばかりに、彼女たちを価値ある仕…

シスターフッドが一部のサブカルに存在することについて

漫画家瀧波ユカリとサブカル系エッセイスト犬山紙子による『女は笑顔で殴りあうーマウンティング女子の実態』(2014)を読了。一読したところ、女子のカースト実態を、マウンティングという動物の生態から借用した言葉で説明する本と思える。確かに、そ…

ファンタジー小説は功利主義的か否か

森見登見彦の『夜は短し歩けよ乙女』(2006)を読む。積読していたものである。タイトルが気になっていて読もう読もうと引き延ばして数年。ようやく手にしてみた。ネットの感想文を読んでみたら、文体が独特で、それが良いとか読みづらい原因だ、などと…

鬱病の本を読んで

適応障害と不安神経症と軽い鬱をまとめて患っている私は、神経症系本をよく読む。そういう本を読んだ後は、例えば著者の鬱が感染したようになって、気分がすこぶる悪くなり、寝込むことが多い。それでも読んでしまうのは、他の人はどうやって神経症と共存し…

キャロル・ギリガンはカントと出会っていた

キャロル・ギリガンは20世紀後半に女性学の分野で活躍したアメリカの発達心理学者である。彼女を著名にしたのは、1982年に発表された『もうひとつの声』である。ここで彼女は、後に「ケアの倫理」と呼ばれることになる、女性がもつとされる特徴を述べ…

熟議や討議は政治手法としてどうなのか?

東浩紀の「一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル」と岡野八代の「フェミニズムの政治学 ケアの倫理をグローバル社会へ」を同時に読んでいる。それで悩んでいる。両者とも、社会をドラスティックに変えようというところでは一致しているのだが、その政…

異なる声 (10)

アメリカの都市部の黒人ゲットーを想像してみよう。そこには、暴力とか貧困とか家族崩壊とか最底辺の生とかを多くの人が想像することだろうと思う。しかし、そういう一面があることは否めないにしても、異なる角度から見てみると、黒人家族同士が相互扶助し…

異なる声 (9)

自己犠牲は女性の美徳であると長い間考えられてきたし、今もそう思われている。私も美徳だと思う。例えば、家族の誰もが自分の事ばかりに関心をもち、家族全体のためにやるべき事をしない場合を想定してみよう。こんな場合、料理や洗濯や掃除や育児や介護を…

異なる声 (8)

女性が子供を産む、産まないを決める。いわゆる女性はリプロダクティブ・ライツをもつとされている。女性という個人が、産む、産まないを決定する権利を有しているということだ。だからといって、リプロダクティブ・ライツが普遍的な権利である、と言うこと…

異なる声 (7)

道徳問題を扱う際に、男性は普遍的な規則を参照するが、女性は他の人との関係性を重視するというのがギリガンが観察から得た知見であった。こう書くと、それは男女の本質主義に繋がるという、前回紹介した上野千鶴子がもつ批判に曝されることになるかもしれ…

結婚しなくてもいい (3)

「それでも、生きていく」(フジテレビ)は、殺人の被害者家族と加害者家族の心の行き交いを描いたドラマである。なかでも、妹を殺された兄の瑛太と、少年であった殺人犯の兄をもつ妹・満島ひかりとの恋愛へと発展していく交流が中心を占め、秀逸。展開具合…

結婚しなくてもいい (2)

結婚しなくてもいい。まるで、人々は結婚という社会制度から解放されて、何か別の可能性へと開かれつつあるようである。そして、敢えて言語化するとすれば、その可能性のひとつが、血縁を下敷きとしない家族を想像していくことだったと言える。角田光代が「…

結婚しなくてもいい (1)

2011年12月17日の朝日新聞夕刊は、昨年放送されたドラマを回顧している。それによれば、昨年のドラマは「絆を問う再生の物語」に集約出来るという。記事いわく、「震災以来、「絆」という言葉がどれほど語られたか。各局が心血を注ぐ震災ドキュメン…

異なる声 (6)

女性が関係性を重視するというのは、いろんな人が述べていることである。例えば、精神科医の斉藤環は、男女の差異について、男性は所有から、女性は関係性から物事を把握していったり、進めていくと言っている。しかし、残念ながら、たいていこのような議論…

専業主婦イメージは貧困

女性のなかで、専業主婦願望をもつ若い人が増え、専業主婦を支持する人も増えている、という言説を最近見かけることが多くなった。と書き出すと、もうすでにその後には専業主婦への否定的イメージが浮かんでくる。人は大人になると自分の食べる分は自分で働…

異なる声 (5)

少年と少女はひとつの道徳問題にたいして異なる解決方法をとっている。少年は、所有物と命を対立するものとしてその道徳問題のなかに見い出し、この対立項を論理基盤として解決を導き出す。薬屋の薬とハインツの妻の命を比較すると、どう考えても妻の命の方…

異なる声 (4)

今読んでいるキャロル・ギリガンの『もうひとつの声』には興味深い例が使われている(以下、引用は1993年発行の英語版から)。少年と少女がある仮説にどう反応するのかを見、それで男女の違いを浮かび上がらせようとするのが狙いだ。ちなみにこの少年と…

『更年期少女』を読む

表紙が綺麗でドキドキしたので、一呼吸して落ち着いて読んだ。主人公はエミリー、シルビア、ミレーユ、ジゼル、マルグリット、そしてガブリエルの6人。1人を除いては、みんな更年期の日本人女性だ。一同介して会うときは、ひらひらのフリルドレスを着ている…

『更年期少女』

を読もうと思う。著者は真梨幸子、2010年発行の小説である。帯がないので内容が分からない。少女が更年期女性のようにいやに歳をとっている小説なのか、はたまた更年期女性がいまだ少女のような意識をもっているのを描く小説なのか。装画は松苗あけみが…

異なる声 (3)

猛暑日が続いたので海に行ってきた。海に入って涼もうとか、ビーチの散策を楽しもうとかそういうことが目的で行ったわけではない。毎年の恒例で、家族が肌をやきに行くと言うので、それに付いて行ったのである。私は肌をやきたくないし、後でべたべたするし…

異なる声 (2)

「女性的な世界」が「男性的な世界」と一緒に議論されると、2つの世界は競合する位置に置かれることが多いように思う。例えば、「男性的な世界」での発達過程や行動や概念などは価値判断をする際の暗黙の基準や達成目標となっていて、そういう枠組みでは、…

異なる声 (1) 

家族が買っていたので、小倉千加子と斎藤由香(自称サントリーの窓際OL、または躁鬱病作家北杜夫の娘)によるコラボ本『うつ時代を生き抜くには』(フォー・ユー、2010年)を読む。家族(乱読が得意)が、5、6ページくらい読んだところで「おもしろくない…

啓蒙なんてできるんですかーTAGTAS円卓会議にて

という質問が会場から出た。TAGTAS(Trans Avant-Garde Theatre Association)プロジェクトが行った円卓会議でのことだった。会議のテーマは「革命の身振りと言語I――演劇の自由と倫理」。ちょっとばかり大げさに聞こえるテーマは、このTAGTASが大逆事件につい…

ちょっと事情があって、村上春樹について勉強することになり、自宅にある春樹ものを読んでいるが、なぜかほとんどのものがつまらなくがっかりしているところ、昨日くらいから大塚英志『物語論で読む村上春樹と宮崎駿――構造しかない日本』を読み始める。50…

「タトゥー」―「閉ざされた家族の愛憎をめぐり、近代社会に潜む深層心理を描く、演劇の持つ官能性に満ちた話題作!」(ちらしより)???

近親相姦は、文字通り、血縁関係にある近親者が性的行為をもつことを指す。それ以上でもそれ以下でもない行為である。しかし、社会的文化的タブーとして扱われている。タブーであることの起源は一向に明らかにされることなく、だから、さまざまな憶測がなさ…

唐組紅テント初体験―「黒手帳に頬紅を」

ちょうど2週間前の5月9日、唐組の紅テントを初体験した。場所は新宿・花園神社で、テントは少し紅色が取れかかってはいるものの、堂々と張ってあった。運動会で見るような白いテントとは違い、遊牧民のものを思わせるような、なんとなくエキゾチックな雰…

涙無しには読めない江藤淳

私は江藤淳の著作を読んだことがない。上野千鶴子の有名なエピソード―『成熟と喪失―“母”の崩壊』を涙無しには読めなかった―で、彼の名を知っているくらいである。そのエピソードを知ったときに『成熟と喪失』を読もうとしたことはあったが、どこで泣いたのか…

湯浅誠とジジェク

昨日は偶然の一致かなあと思うことがあった。新聞のテレビ欄に「生存権を考える」(NHK教育)という番組の紹介(試写室)があって、その番組には「派遣切り」で失職、住む場所も失った労働者を支援してきた派遣村村長の湯浅誠氏が出演するということだっ…

犬と女子小学生

犬を散歩させているときである。低学年らしき女子小学生に途中で出くわした。我が家の犬トントンは、小学生が大好きである。ちょろちょろ動き回ったり、奇声をあげながら遊んでいるのが特にお気に入りで、自分も一緒に遊びたいと考えているようだ。それで、…