異なる声 (4)

今読んでいるキャロル・ギリガンの『もうひとつの声』には興味深い例が使われている(以下、引用は1993年発行の英語版から)。少年と少女がある仮説にどう反応するのかを見、それで男女の違いを浮かび上がらせようとするのが狙いだ。ちなみにこの少年と少女、頭がよく、社会問題にも敏感で、例えば、ジェンダーステレオタイプを躊躇無くすんなり受け入れるという子どもではない。それどころか、抵抗を示しているようなところがあって、少年は英語の先生に、少女は科学者になりたいと思っている。

さて、仮説は以下のとおり。

ハインツという男がいた。この男の妻は今重病で、それを直すには高価な薬を必要とする。が、ハインツはその薬を買うだけのお金をもっていない。薬の値段を下げてくれと薬屋に交渉するも、薬屋は頑と首を縦に振らない。ハインツは妻を救うために薬を盗むべきだろうか?

少年の答えは明快である。少年は薬を盗むべきだと考える。彼は理由をこう説明する。

「ひとつには、人間の命はお金より価値がある。薬屋は1000ドルのお金を儲けるだけで、なおかつ生き続けるが、もしハインツが薬を盗まなければ、妻は死んでしまう。(質問「どうしてお金より命の方が価値があるの?」)薬屋は、後で、お金持ちのガン患者から1000ドルのお金を得ることができるけれども、ハインツは妻を取り戻すことができない。(質問「どうして?」)人々はみんな違う、だからハインツは妻を取り戻せないんだ。」(26)

少年は、次のようにも言う。

たとえハインツが妻を愛していなくても薬を盗むべきである。嫌いであることと殺すことは位相の異なることである。また、盗みのかどで捕まったとしても、裁判官はハインツがやったことは正しい選択だったと考え、最も軽い刑を与えると思う。ハインツは法を犯すことになるが、法だって間違っていることがある。

一方、少女は薬を盗むべきではないと迷いながらも答える。

「私は盗むべきではないと考える。盗むという方法以外に他の方法があるんじゃないかと思う。例えば、お金を借りたり、借金をしたりとか。でもハインツは薬を盗むべきじゃない。だからといって、妻を死なせてもいけない。」

(質問「どうしてハインツは薬を盗んじゃいけないの?」)

「もし彼が薬を盗んだら、妻を救うことができる。でもそうしたら、ハインツは牢獄送りになって、妻はもっと病気が重くなるかもしれない。それに牢獄に入ったらもう薬を手に入れることができなくなるので、それは良くないことだと思う。だから、ハインツと妻はよく話し合って、お金を工面する方法を考えるべきだわ。」

「妻が死ぬようなことになったら、多くの人が傷つくし、それがまた妻を傷つけると思う。……もし誰かが誰かの命を救うような物をもっているのに、それをあげないというのは正しいことではないと思うの。」(28)

さあ、少年と少女は、この道徳的問題をどう解決しているのか。みなさんは、どちらの意見ですか?